横浜 日本丸は動けない その理由と保存船としての今

現実逃避日本丸 時間を感じる場所

横浜 日本丸は動けない|その理由と保存船としての今

「日本丸」は今なぜ動けない?その背景と仕組み

横浜・みなとみらいのシンボルとして、その優美な姿で人々を魅了する帆船日本丸。しかし、多くの人が抱く「あの船は今も海を走れるのだろうか?」という疑問の答えは「ノー」です。ここでは、日本丸がなぜ“動けない”のか、その技術的・歴史的な理由を詳しく解説します。

1. 保存船・博物館船となった「日本丸」

横浜港の第一号ドックに係留されている「帆船日本丸」は、現役を引退した後、航海能力を放棄した保存船・博物館船としてその姿を留めています。これは「永久係留」と呼ばれ、法的に陸上の建造物に近い扱いとなり、自力で航行することはありません。船としての命を終え、文化財としての新たな役割を担っているのです。

動けない理由は、主に以下の3つの複合的な要因に基づいています。

  • 機関部(エンジン)の取り外し・保存状態 航行するための心臓部であるエンジンや補機類の多くが、保存措置の一環として取り外されたり、稼働できない状態にされています。

  • 長年の老朽化・安全面 1930年の建造から半世紀以上もの間、厳しい海の環境に耐えてきた船体は、経年による老朽化が進んでいます。再び航海の安全性を確保するには大規模な修復が必要です。

  • 保存目的・展示運用のための法的な制約 文化財として保存・公開するため、現代の船舶安全法などの厳しい航行基準を満たすための改造は行われていません。動かすことよりも、歴史的な姿を維持することが優先されています。

最も決定的な理由は、機関部が既に稼働不能な状態にあることです。仮に再び動かすとすれば、数億円ともいわれる莫大なコストと、文化財としての価値を損なうリスクを伴うため、現実的ではないのです。

2. 「動態保存」と「静態保存」の違い

歴史的な船舶の保存方法には、大きく分けて2つのアプローチがあります。

動態保存と静態保存

  • 動態保存(どうたいほぞん) エンジンや航海設備を常に整備し、実際に航行できる状態を維持する保存方法。維持管理に高い技術とコストがかかりますが、実際に動く姿を見ることができます。
  • 静態保存(せいたいほぞん) 船体を特定の場所に係留・固定し、主に展示物として保存する方法。航行能力は失われますが、多くの人が安全に船内を見学し、歴史に触れることができます。

横浜の「日本丸」は、このうちの静態保存船に分類されます。1984年の現役引退後、横浜市が歴史的遺産として後世に伝える道を選択しました。その結果、航海能力と引き換えに、誰もが気軽にその内部に触れ、日本の海運史を学べる“海に浮かぶ博物館”として生まれ変わったのです。


現役時代の日本丸と「動けなくなる」までの物語

1. 日本丸の輝かしい航海記録

「太平洋の白鳥」と謳われた帆船日本丸(初代)は、1930年(昭和5年)に神戸の川崎造船所で誕生しました。以来、船員を養成する航海訓練所の練習船として、54年間にわたり大海原を駆け巡りました。その航海距離は183万km、実に地球約45.5周分に相当し、11,500名もの海の若人を育て上げました。太平洋戦争中は訓練を中断し、石炭などを輸送する任務にも従事した歴史を持ちます。

国の重要文化財としての価値

帆船日本丸は、戦前の日本における造船技術の粋を集めた傑作であり、日本の海運教育の歴史を物語る貴重な産業遺産です。その歴史的・文化的価値が認められ、2017年には文化庁により国の重要文化財に指定されました。

2. 引退と保存の決断

1984年9月16日、多くのファンに惜しまれながら、日本丸は現役を引退。老朽化と、後継船である「日本丸Ⅱ世」の就航がその理由でした。引退後、その歴史的価値から解体を惜しむ声が全国から上がり、横浜市が母港であった縁から誘致に乗り出します。そして市民や企業の寄付金を集め、1985年4月から「日本丸メモリアルパーク」として一般公開が始まりました。

この保存が決定した時点で、安全な展示を優先するため、ディーゼルエンジンをはじめとする動力部の多くが撤去、または稼働しないように固定措置が取られました。これが、日本丸が“動けない船”となった歴史的な瞬間でした。


横浜 日本丸は動けない|それでも体感できる“海のロマン”

1. 船内見学で“生きた帆船”の空気を感じる

日本丸は航行こそしませんが、その代わりに船内の隅々まで見学することが可能です。一歩足を踏み入れれば、そこは時間が止まったかのような空間。潮の香りと木の油の匂いが混じり合い、現役当時の船員たちの息づかいが聞こえてくるようです。舵輪を握り、狭い船室を覗き込み、甲板からマストを見上げる。そのすべてが、動かないからこそじっくりと味わえる貴重な体験です。

帆船日本丸 見学・施設情報
項目 内容
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始、臨時休館日あり
共通券料金 大人:600円、小・中・高校生:300円、65歳以上:400円 (横浜みなと博物館との共通券)
アクセス JR・市営地下鉄「桜木町駅」から徒歩5分 みなとみらい線「みなとみらい駅」「馬車道駅」から徒歩5分
公式サイト https://www.nippon-maru.or.jp/ ※最新情報は公式サイトをご確認ください

主な見学ポイントは下記の通りです:

  • 操舵室(ブリッジ)
    船の指揮所。真鍮製の美しい羅針盤やエンジンテレグラフ、伝声管など、アナログな計器類が並びます。重厚な舵輪に手をかければ、気分はまるで大航海時代の船長です。

  • 士官室・船員居住区
    船長室や士官サロンの格調高い調度品、訓練生たちが生活したハンモックの寝床など、船内の階級による生活の違いを垣間見ることができます。

  • 甲板(デッキ)・マスト
    チーク材が張られた美しい甲板を自由に歩き回れます。高さ約50mのマストを見上げればその迫力に圧倒されるはず。船上から眺めるみなとみらいの景色は格別です。

  • 機関室・船内展示
    一部が保存されているディーゼルエンジンや、日本丸の歴史を伝えるパネル、貴重な資料や模型などが展示されており、この船が歩んできた輝かしい歴史を深く学べます。

さらに、年に約12回、市民ボランティアの手によって29枚すべての帆を広げる「総帆展帆(そうはんてんぱん)」が実施されます。その純白の帆が青空に映える姿は圧巻の一言。動かずとも、船が最も美しい姿を見せてくれる特別な日です。

2. みなとみらい散策×日本丸

日本丸は、みなとみらい21地区の景観を構成する重要な要素です。周辺にはランドマークタワーやクイーンズスクエア、汽車道、コスモワールドの大観覧車など、横浜を代表するスポットが集中しています。昼の青空の下での爽やかな姿、そして夜景にライトアップされた幻想的な姿、どちらも訪れる人々を魅了する絶好のフォトスポットです。


日本丸が「動かない」ことの意義と未来への継承

歴史的な船を航行可能な状態で保存することは、莫大な費用と専門的な技術者を必要とします。日本丸が「動かない」ことを選択したからこそ、誰もが安全に、そして安価にその内部に足を踏み入れ、歴史の証言に触れることができるのです。

  • 日本の海運・造船技術の生きた教材として 子供たちが本物の船に触れ、海や船に興味を持つきっかけとなっています。

  • 市民参加による文化財継承の場として 総帆展帆や日々のメンテナンスは、多くの市民ボランティアによって支えられています。

  • 横浜のアイデンティティを象徴するシンボルとして 港町・横浜の歴史と未来をつなぐ、かけがえのない存在となっています。

日本丸は「動かない」ことで、その価値を失ったわけではありません。むしろ、横浜の地に根を下ろし、訪れるすべての人に“海のロマン”を静かに語りかける、かけがえのない存在として輝き続けているのです。


横浜 日本丸は動けない|Q&Aでさらに深掘り!

Q. いつか日本丸が再び動くことはありますか?

その可能性は限りなくゼロに近いと言えます。国の重要文化財として、その歴史的な姿を現状のまま維持することが最優先されます。動かすための改造は文化財の価値を損なう恐れがあり、また数億円規模の修復費用や、現代の安全基準を満たすための技術的なハードルも極めて高いためです。

Q. 動かない日本丸でも見どころは?

もちろんです!見どころは満載です。

  • 帆船全体の優美な姿 「太平洋の白鳥」と称された美しい船体を外から眺めるだけでも価値があります。

  • リアルな船内探検 操舵室、士官室、機関室など、現役当時の面影が色濃く残る船内を自分の足で歩けます。

  • 年に一度の特別なイベント 総帆展帆や満船飾、年末年始のイルミネーションなど、季節ごとの特別な姿を楽しめます。

  • みなとみらいの夜景との共演 ライトアップされた日本丸と近代的なビル群が織りなす夜景は、横浜を代表する絶景です。

Q. 2代目日本丸はどうなっている?

後継船である「日本丸Ⅱ世」は、現在も独立行政法人海技教育機構の練習帆船として、世界中の海で未来の船乗りたちを育てています。姉妹船の「海王丸」と共に活躍しており、時折横浜港に寄港し、初代日本丸とのツーショットが見られることもあります。


横浜 日本丸は動けない|まとめ

この記事では、横浜の帆船日本丸がなぜ動けないのか、その理由と現在の姿について解説しました。

  • 横浜の日本丸は、歴史的価値を後世に伝えるための「静態保存船」であり、航行することはできません。

  • 動力部の撤去、船体の老朽化、文化財としての保存が“動けない”主な理由です。

  • 現役時代は地球45.5周分を航海し、日本の海運教育に多大な貢献をした伝説の練習帆船です。

  • 動かなくても、その価値は不変。みなとみらいのシンボルとして、多くの人に海のロマンを伝え続けています。

  • 船内見学が可能で、操舵室や甲板、士官室など、現役当時の空気を肌で感じることができます。


参考・公式リンク集


「動けなくなったからこそ、時代を越えて“本物”にふれられる」――横浜の誇りである帆船日本丸を、ぜひ一度その目でご覧になり、その歴史とロマンを感じてみてください。