横浜 田舎の風景|都市の喧騒を忘れて“ふるさと”に帰る休日を
「横浜に、本当に“田舎の風景”なんてあるの?」——港の夜景や高層ビル群、中華街の活気あふれるイメージを持つ多くの人が、そう疑問に思うかもしれません。
横浜といえば、みなとみらいの先進的な都市景観や、異国情緒漂う元町の街並みなど、華やかで洗練された観光都市の顔が広く知られています。
しかし、その広大な市域に一歩深く足を踏み入れると、そこには懐かしい香りのする田園や、多様な生き物が息づく里山、昔ながらの農村集落、そして美しい川辺の原風景が、まるで隠されるかのように今も静かに息づいています。
本記事では「横浜 田舎の風景」をキーワードに、都会のすぐ隣で“心安らぐふるさと”に出会える横浜のもう一つの魅力を、具体的なエリア紹介から、五感で楽しむ体験、その地に根付く歴史、そして地域の人々の温かい声まで、余すところなくお届けします。
この記事のポイント
- 横浜市内に今も大切に残されている田舎の風景の特色と、週末に訪れたいおすすめエリアを地図と共に詳しく紹介します。
- ご高齢の方や小さなお子様連れの家族も無理なく楽しめる、緩やかでバリアフリーにも配慮された田舎散策コースや農業体験を具体的に提案します。
- 急速な都市開発の歴史の中で、なぜこれらの里山や田園が守られてきたのか、その背景にある歴史や地元住民の活動、行政との連携を掘り下げます。
- 四季折々の自然の美しさはもちろん、採れたて野菜を味わうグルメ、土に触れる農業体験、地元の農産物直売所など、田舎ならではの楽しみ方を満載でお届けします。

横浜 田舎の風景はどこにある?|都市と自然が共存する“もうひとつの横浜”
横浜と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、日本を代表する大都市の姿でしょう。しかし、人口377万人(2025年時点)を抱えるこの大都市の素顔はそれだけではありません。市の総面積約438平方キロメートルのうち、実は緑被率(緑で覆われた土地の割合)が約26%を占めており、これは政令指定都市の中でも比較的高い水準です。
特に、市の北部(緑区・青葉区)、西部(旭区・瀬谷区・泉区)、そして南部(戸塚区・栄区)には、丘陵地や谷戸(やと)と呼ばれる谷状の地形が複雑に入り組んでおり、その地形が結果として大規模な開発を免れ、豊かな自然と農村的な風景を現代に伝えているのです。
そのため、都心から電車でわずか30〜40分移動し、駅から少し歩くだけで、首都圏とは思えないほど穏やかで懐かしい“田舎の原風景”に出会うことができるのです。
横浜最大級の田園地帯「旭区・瀬谷区」
市の北西部に位置する旭区と瀬谷区の区境周辺は、横浜に残された最も広大な田園地帯の一つです。特に帷子川(かたびらがわ)の上流域にあたる上川井町や川井宿町では、今も広々とした水田や畑、それらを取り囲む雑木林が点在し、昔ながらの農家の屋敷や蔵が風格ある姿を見せています。
春には水が張られた田んぼに空が映り込み、夏にはカエルの合唱とホタルが舞う小川のせせらぎが聞こえ、秋には黄金色の稲穂が風に揺れます。遠くには横浜のビル群を望むこともでき、「田園と都市」の対比が非常に印象的な景観を生み出しています。
週末には農家の軒先や無人販売所、JAの直売所などで採れたての新鮮野菜を求める人々で賑わい、「首都圏でこれほど雄大な田園風景が残っているのは奇跡的」と、写真愛好家や風景画家にも愛される場所となっています。
新治町・寺家町|横浜の“原風景”里山を歩く
横浜市緑区の「新治町(にいはるちょう)」から、市境を越えて川崎市麻生区の「寺家町(じけまち)」にかけての一帯は、日本の“ふるさとの原風景”ともいえる里山文化が色濃く息づくエリアです。
谷戸の地形に沿って作られた田畑と、薪や炭を得るために手入れされてきた雑木林、豊富な湧き水を集めるため池、そして茅葺屋根の古民家——これらが一体となった景観は、まるで時代を遡ったかのような静けさと美しさに満ちています。
このエリアには、市民が自然と触れ合える二大拠点があります。
【新治市民の森と寺家ふるさと村】
| 施設名 | 特徴 | 楽しみ方 |
|---|---|---|
| 新治市民の森(横浜市緑区) | 約66ヘクタール(東京ドーム約14個分)の広大な森。多様な動植物が生息し、起伏に富んだ散策路が整備されている。展望台からの眺望も魅力。 | ハイキング、バードウォッチング、森林浴、旭谷戸(あさひやと)の田園風景の眺め、ボランティアによる保全活動への参加。 |
| 寺家ふるさと村(川崎市麻生区) | 田園と森が一体となった景観が特徴。水車小屋や古民家が点在し、四季の家では地元の情報提供や休憩ができる。「むじな池」「熊の池」など風情ある池も。 | 田園風景の中の散策、ギャラリーでの作品鑑賞、旬の食材を使った食事処、農業体験イベント(田植え・稲刈り)、陶芸体験。 |
どちらも高齢者や子ども連れが安心して歩けるよう、遊歩道や休憩ベンチ、バリアフリー対応のトイレが整備されており、三世代でのんびりと休日を過ごすのに最適な場所です。続きを出力してください。
泉区・戸塚区|和泉川流域と長屋門公園の癒し
横浜市の南西部、相鉄いずみ野線沿線に広がる泉区・戸塚区には、境川の支流である和泉川(いずみがわ)が穏やかに流れています。この川沿いには、のどかな田んぼや季節の花々が咲く花畑、そして点在する古民家が、美しい田園風景を織りなしています。
春には川沿いを彩る桜と菜の花の黄色い絨毯、夏には生命力あふれる緑の稲、秋にはコスモスや彼岸花の群生が訪れる人々の目を楽しませてくれます。
特に泉区にある「長屋門公園」は、江戸時代後期に建てられた旧家の長屋門(※武家屋敷や豪農の屋敷に見られる、門の両脇に部屋が連なった形式の門)を中心に、母屋や蚕小屋などが復元された施設です。手入れの行き届いた和風庭園や竹林を眺めながら、日本の原風景の中でゆったりとした時間を過ごせる市民の憩いの場となっています。
公園内や和泉川沿いの遊歩道は平坦で歩きやすく整備されており、親水広場では子どもたちが水遊びに興じる姿も見られ、ご高齢の方にも優しい田舎体験スポットとして親しまれています。
川やため池と共生する農村集落
横浜の田舎エリアを歩くと、今もなお農業用水路やため池が人々の暮らしと深く結びついていることに気づかされます。これらの水辺は、単に農業に水を供給するだけでなく、豊かな生態系を育む重要な役割を担っています。
春には用水路沿いの桜並木が満開となり、夏にはホタルの淡い光が闇夜を舞い、秋には収穫を終えた稲穂が風にそよぐ、詩的な風景が広がります。
ため池のほとりでは、ザリガニやメダカを捕る子どもたちの歓声が響き、カワセミやサギなどの野鳥を観察する人々の静かな時間が流れます。ここには、「自然の恵みと共に生きる、昔ながらの人間の営み」が、大都市横浜の中で奇跡的に、そして確かに受け継がれているのです。
横浜 田舎の風景の楽しみ方|暮らし・体験・散策コース
「大都市の利便性を享受しながら、思い立った時にすぐ田舎の自然に浸れる」これこそが横浜で田舎風景を楽しむ最大の魅力です。ここでは、体力や年齢を問わず誰もが満喫できる、田舎散歩の具体的な楽しみ方をご紹介します。
季節ごとの自然と出会う里山散策
横浜の田舎は、四季の移ろいがはっきりと感じられる場所です。訪れるたびに異なる表情を見せてくれる自然との出会いを楽しみましょう。
- 春(3月~5月):田んぼに水が入り、田植えが始まる生命の季節。桜や菜の花、ヤマザクラが里山を彩り、ウグイスの鳴き声が響き渡ります。野鳥観察にも最適な時期です。
- 夏(6月~8月):青々と育った稲が風に波打ち、力強い生命力を感じさせます。夕暮れ後にはホタル観賞会が開かれる場所も。木陰の散策路は涼しく、心地よい汗を流せます。
- 秋(9月~11月):黄金色に実った稲穂が一斉に刈り取られ、里山は実りの季節を迎えます。コスモスや彼岸花が咲き乱れ、多くの地区で収穫を祝う秋祭りやイベントが開催されます。
- 冬(12月~2月):空気が澄み渡り、静寂に包まれた里山を歩く季節。落葉した木々の間から遠くの山々(時には富士山も)を望むことができます。霜が降りた朝の田んぼのきらめきは格別です。
田舎カフェ・直売所グルメも充実
散策の合間の楽しみといえば、やはり「食」です。横浜の田舎エリアには、その土地ならではの素朴で滋味あふれるグルメが待っています。
農家さんが経営する古民家カフェでは、採れたての新鮮な野菜をふんだんに使ったランチプレートや、手作りのスイーツが味わえます。また、地域経済の重要な拠点であるJA横浜の農産物直売所「ハマッ子」各店や、農家の庭先にある無人販売所では、その日の朝に収穫されたばかりの瑞々しい野菜や果物、手作りのお惣菜などが驚くほど手頃な価格で手に入ります。
「里山で採れた筍のおにぎり」「地元産の新米を使ったおむすび定食」「濃厚な自然卵で作ったプリン」など、その場所でしか味わえない素朴なグルメは、田舎散策の最高の思い出となるでしょう。
体力や移動に不安がある方も安心の散策路
「田舎や里山を歩きたいけれど、体力に自信がない」という方もご安心ください。横浜の田舎エリアの多くは、誰もが自然に親しめるよう配慮されています。
前述の「新治市民の森」や「長屋門公園」、そして「和泉川親水広場」などには、広く舗装されたバリアフリーの遊歩道が整備されており、車椅子やベビーカーでもスムーズに散策が可能です。また、随所に休憩用のベンチや清潔なトイレ(多目的トイレを含む)が設置されているため、ご自身のペースで無理なく楽しめます。
家族でのんびりとお弁当を広げたり、ベンチに座って鳥の声に耳を傾けたりしながら、ゆっくりと流れる田舎の時間を心ゆくまで味わってください。
地元住民の声・エピソード
「都会育ちの子どもが、ここで初めて田んぼのカエルを夢中で追いかけている姿を見て、連れてきて良かったと心から思った」
「定年後、この風景の近くに越してきました。毎朝の散歩で季節の移ろいを感じることが何よりの健康法です」
「祖父母と一緒にホタルを見に行くのが、我が家の毎年の夏の恒例行事。この風景があるから横浜に住み続けたいと思います」
地元住民や、この風景を愛して移り住んだ人々からは、そんな声が多く聞かれます。彼らにとってこの風景は、単なる美しい景色ではなく、日々の暮らしに潤いを与え、世代を超えて思い出を紡ぐ、かけがえのない「誇り」なのです。
横浜 田舎の風景の歴史と、守る人々
かつての横浜は、江戸時代から明治・大正期にかけて「開港都市の賑わいと、豊かな農村」という二つの顔を持つまちでした。海岸部では海外との交易が盛んに行われる一方、内陸部では広大な農地や里山が人々の暮らしを支えていました。
しかし、戦後の高度経済成長期以降、急速な都市化の波が内陸部にも及び、多くの農地や里山が宅地へと姿を変えていきました。そうした中で、今ある田舎の風景は、市民団体や地元の農家、そして行政が一体となった懸命な取り組みによって、“未来へ残すべき市民の財産”として守られてきたのです。
市民活動・ボランティアによる里山保全
新治市民の森や寺家ふるさと村をはじめとする多くの里山では、市民ボランティアが保全活動の主役を担っています。週末になると多くの市民が集まり、下草刈りや間伐、植林、田畑の管理など、地道な作業に汗を流しています。
また、ホタルの生息環境を守る活動や、在来の植物を再生させる取り組み、子どもたち向けの生き物観察会なども定期的に開催されています。近年は若い世代の参加も増えており、「自分たちの手でふるさとの風景を次世代に繋いでいきたい」という強い思いが、地域社会に深く根付いています。
都市と田舎の“いいとこ取り”——新しい暮らし方へ
近年、特にコロナ禍を経て働き方が多様化する中で、「都市の利便性の近くで田舎暮らしの豊かさを享受する」「週末だけ里山で過ごすデュアルライフ」といった新しい暮らし方を実践する人々が増えています。
新治・寺家・和泉川周辺には、横浜中心部や都内から通う“田舎体験リピーター”や、週末だけ畑仕事を楽しむ若者、シェア畑で仲間と野菜作りをする家族の姿も目立つようになりました。
横浜の田舎の風景は、もはや単なる「観光地」や「残された自然」ではなく、現代人の心身を癒す憩いの場であり、第二のふるさととして、新たな価値と役割を発揮し始めているのです。
未来に向けて——田舎の風景を守り育てる
農業従事者の高齢化や後継者不足といった課題に直面しながらも、横浜の田舎風景は市民一人ひとりの愛情と、地域が育んできた誇りによって力強く守られています。
「子どもや孫の世代に、ホタルが舞う小川や、カブトムシがいる雑木林を残したい」「季節の移ろいと共に暮らすことの豊かさを伝えたい」——そんな温かい願いが、横浜の田舎エリアを静かに、そして確かに支え続けているのです。
横浜 田舎の風景|まとめ
- 横浜市内には、都市のイメージを覆すような美しい田舎の風景、里山、田園、古民家が今も大切に残されています。
- 特に旭区、瀬谷区、緑区、泉区、戸塚区など市の北部・西部エリアで、“もうひとつの横浜”の魅力を体感できます。
- ご高齢の方や家族連れも無理なく楽しめる散策コース、バリアフリー対応の公園や農産物直売所も充実しています。
- 地元の暮らしに触れ、季節の恵みを味わい、土の匂いを感じる体験は、何よりの癒しと懐かしさをもたらしてくれます。
- これらの風景は、市民のボランティア活動と地域の強い絆によって、未来へと守り継がれています。
「横浜 田舎の風景」は、慌ただしい日常から少しだけ離れて、心と体がほっとする“ふるさと”に帰る体験ができる特別な場所です。
ぜひ次の休日は都会の喧騒を忘れ、穏やかな時間が流れる“もうひとつの横浜”に足を運んでみてはいかがでしょうか。