横浜観光で100年前と変わらない場所を訪ねて|歴史が息づく穴場スポット特集
時間を旅するように、変わらぬ風景に出会う横浜散策
「横浜観光 100年前と変わらない場所」というキーワードに込められた深い魅力。それは、日本随一の近代都市として劇的な変化を遂げてきた横浜の中にも、まるで時が止まったかのように、かつての面影を色濃く残す空間が今なお息づいているという事実です。
未来的な高層ビルが立ち並ぶみなとみらいや、常に活気に満ちる中華街などの華やかな開発エリアも、もちろん横浜の大きな魅力です。しかし、そうした主要な観光地からほんの一歩、路地裏や丘の上へと足を向けるだけで、明治・大正・昭和初期の息吹が、まるで昨日のことのように感じられる空間が広がっています。そこは、関東大震災や横浜大空襲といった幾多の試練を乗り越え、奇跡的に、あるいは人々の不断の努力によって守られてきた場所でもあります。
今回は、そんな「100年前とほとんど変わらない」風景や貴重な建築、そして独特の空気感を楽しめる横浜市内の穴場スポットを、歴史的背景とともにじっくりとご紹介します。歴史に想いを馳せながらの静かな散策は、通常の観光とはひと味もふた味も違った“時間旅行”そのもの。忙しい日常を忘れさせてくれる、ノスタルジックで奥深い横浜の一面をお楽しみください。
記事のポイント4つ
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横浜市内に現存する、明治〜大正期、あるいは昭和初期に建てられた貴重な建造物や歴史的な空間を紹介します。
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単体の建物だけでなく、周囲の街並みや石垣、坂道なども含め、当時の雰囲気が色濃く残る場所を厳選しました。
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多くの観光客が訪れる有名スポットをあえて避け、“穴場”として静かな散策や思索にふけるのに最適なロケーションです。
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建築、文化、そして変わらずそこにある自然という視点から、横浜に残された「変わらない価値」を再発見します。
横浜観光 100年前と変わらない場所を歩く【前半】
元町百段階段と山手の洋館エリアの裏通り
横浜の異国情緒を代表する山手町と、洗練された元町商店街。この二つのエリアを急峻な地形で結ぶ“百段階段”は、横浜の坂道文化の象徴ともいえる特別なスポットです。明治期からその姿をほとんど変えていない石段の並びと、両側に風格を持って佇む古い住宅や、苔むした石垣は、当時の面影を色濃く残しています。
観光スポットとして整備された「港の見える丘公園」や「山手西洋館」の華やかさとは対照的に、百段階段やそこから続く裏通りには、観光客の姿はほとんどありません。そこには、100年以上にわたり外国人と日本人が共存してきた、横浜の原風景ともいえる“生きた歴史”が今も残されています。時を越えてなお美しい、生活と文化が重層的に織りなす街角の空気感を、ぜひゆっくりと味わってみてください。
元町百段階段(もとまちひゃくだんかいだん)
- アクセス:みなとみらい線「元町・中華街駅」5番出口(元町口)から徒歩約10分。
- ポイント:急な階段ですので、歩きやすい靴が必須です。階段の途中や上から見下ろす元町の街並みも風情があります。
本牧十二天社と周辺の石段路地(中区)
かつては風光明媚な漁村であり、高級料亭などが点在する別荘地でもあった本牧エリア。その中心部にひっそりと佇む「十二天社(じゅうにてんしゃ)」は、地域の鎮守として長年にわたり地元の人々に親しまれてきた古社です。境内は小規模ながらも、歴史を感じさせる参道の石畳や風格のある鳥居、そして神社の周囲の住宅地へと張り巡らされた細い石段などは、まさに“時間が止まった”かのようです。
特に、神社周辺の本牧原エリアには、昭和初期の木造住宅が今も点在しており、それらと併せて巡ることで、近代建築と戦前の生活の名残を強く感じることができます。車が入れないような細く、急な石階段を登れば、眼下に広がる穏やかな風景が、慌ただしい現代の私たちを優しく包み、心を和ませてくれるはずです。
本牧十二天社(ほんもくじゅうにてんしゃ)
- アクセス:市営バス「本牧十二天」バス停下車 徒歩約3分。JR根岸駅や桜木町駅からバス便が多数あります。
- ポイント:観光地化されていないため、地域住民の生活の場であることを尊重し、静かに散策するのがマナーです。
横浜三溪園(さんけいえん)|園内の移築建築が語る明治の暮らし
横浜を代表する有名観光地として知られる三溪園ですが、「100年前と変わらない場所」というテーマにおいて、ここは絶対に外せない重要なスポットです。なぜなら、この広大な日本庭園は、実業家の原三溪が個人の財を投じて、日本全国から失われゆく貴重な古建築を収集・移築し、保存するために創り上げた場所だからです。
園内の多くの建物は、京都・鎌倉・和歌山などから移築された、室町時代から江戸、明治期にかけての重要文化財です。特に臨春閣(紀州徳川家の別荘建築)や、合掌造りの旧矢箆原家住宅(飛騨白川郷から移築)などは、まさに100年以上前の建築様式や当時の生活様式を、現代に忠実に伝えています。これら貴重な建造物群は、三溪園公式サイトでもその歴史が詳しく紹介されています。紅葉や梅、蓮など、四季折々の美しい自然を背景に古建築を眺めるひとときは格別。日本建築の粋と、それを守ろうとした個人の情熱に触れられる、最高峰の「時間旅行」スポットです。
三溪園(さんけいえん)
- アクセス:JR根岸駅から市営バス(58系統、99系統など)で約10分、「本牧」または「三溪園入口」下車 徒歩約5~10分。
- ポイント:非常に広大(東京ドーム約3.8個分)なため、全てを見るには2時間以上必要です。「内苑」に特に古い建物が集中しています。
野毛坂の石垣と旧道沿いの古商店跡(西区)
桜木町駅からほど近い野毛坂から、伊勢山皇大神宮のある紅葉坂にかけての旧道には、大正から昭和初期にかけて営業していた商店の跡が点在しており、現在も当時の面影を色濃く残す建物が並びます。建物の軒先が通りに突き出た「出桁造り(だしげたづくり)」の店構えや、木製の窓枠が残る木造2階建ての家々は、まさに昭和の下町文化そのものです。
さらに、野毛坂の途中には、関東大震災以前からあると思われる古い石垣や擁壁、坂の上に建つ和風建築が複雑に重なり合い、訪れるたびに新たな発見がある味わい深い通りです。ここは観光地として整備されていない分、より自然体でノスタルジックな横浜の側面を感じることができるでしょう。
野毛坂・紅葉坂周辺
- アクセス:JR「桜木町駅」または京急線「日ノ出町駅」から徒歩約10分。
- ポイント:野毛の飲み屋街の喧騒から一歩離れたエリアです。伊勢山皇大神宮や掃部山公園(かもんやまこうえん)と合わせて散策するのもおすすめです。
横浜観光 100年前と変わらない場所に出会える【後半】
打越橋と代官坂下の煉瓦擁壁・階段道
JR石川町駅から山手の丘陵地帯へ向かう坂道の途中、打越橋(うちこしばし)や代官坂下(だいかんざかした)の周辺には、明治期に外国人居留地のインフラとして整備された煉瓦(れんが)造りの擁壁や階段が、今もそのままの姿で残っています。特に注目すべきは、煉瓦の積み方です。長い面と短い面を交互に並べる「フランドル積み(フランス積みとも)」という、明治時代の建築や土木構造物に特有の美しい手法が見られ、建築史が好きな方にも注目される場所です。
苔むした煉瓦の階段の先には、山手らしい異国風の建物が続き、古い石垣に蔦が絡む風景は、どこかヨーロッパの古都の街並みを思わせる風情があります。日常の風景の中に、開港当時の歴史が確かに生きている、そんな場所です。
代官坂下の煉瓦擁壁
- アクセス:JR根岸線「石川町駅」南口より徒歩約7分。代官坂を登る途中にあります。
- ポイント:周辺は道が細く、車の往来もあるため注意。打越橋(かながわの橋100選)からの眺めも素晴らしいです。
本町通りの旧銀行建築群(関内周辺)
横浜が日本の金融・貿易の中心地であったことを今に伝える関内エリア。特に本町通り(ほんちょうどおり)沿いには、100年近く前の近代建築が奇跡的に、そして威厳を持ってそのまま残されている場所が多くあります。その代表例が、ネオ・ルネサンス様式の重厚な石造建築が威厳を放つ、横浜正金銀行本店跡(現:神奈川県立歴史博物館)です。この建物は国の重要文化財にも指定されています。
このほかにも、旧第一銀行横浜支店(現:横浜アイランドタワー)や旧三井物産横浜ビルなど、歴史的なレンガ造りや石造りの建物が並ぶ街並みは、横浜がいかに早くから国際都市として発展していたかを雄弁に物語っています。カメラ片手に、建築様式の違いを比べながら歩くだけでも知的な興奮を覚える、まさに“建築の宝庫”です。
関内・本町通りの近代建築群
代表的な歴史的建造物をいくつか紹介します。
| 建物名(当時) | 現在の名称・用途 | 建築年 |
|---|---|---|
| 横浜正金銀行本店 | 神奈川県立歴史博物館 | 1904年(明治37年) |
| 旧第一銀行横浜支店 | 横浜アイランドタワー(一部保存) | 1929年(昭和4年) |
| 旧三井物産横浜ビル | (耐震改修・保存) | 1911年(明治44年) |
| 旧川崎銀行横浜支店 | (外壁保存・ビル) | 1922年(大正11年) |
- アクセス:みなとみらい線「馬車道駅」直結、またはJR「関内駅」から徒歩約5分。
打越天神社と周辺の長屋跡(中区打越)
明治中期に創建されたとされる打越天神社(うちこしてんじんじゃ)は、急な石段を登った先にある、地域住民だけが知る高台の神社です。小さな祠と、加工されていない自然石を組み合わせた珍しい鳥居、そして神社の周囲に残された古い長屋や石垣は、まるで昭和初期の生活風景がそのままフィルムから切り取られたかのようです。
丘の斜面にへばりつくように残る木造住宅群は、その多くが今もなお現役の住まいとして利用されており、観光地化とは無縁の“生きた歴史空間”となっています。横浜の中心部に、これほどディープな昭和の風景が残されていることに驚かされるはずです。
打越天神社(うちこしてんじんじゃ)
- アクセス:市営バス「山元町」バス停下車 徒歩約8分。またはJR「石川町駅」から徒歩約15分(急坂あり)。
- ポイント:道が非常に狭く、急な階段が続きます。住民の方のプライバシーに最大限配慮し、静かに訪問しましょう。
本牧の旧道と古い商店の風景
戦前はリゾート地、戦後は米軍の接収地として独自の文化を育んできた本牧。そのメインストリートである「本牧通り」から一本入った旧道沿いには、戦前から営業を続けていると思われる商店や、かつて料亭として使われていた木造建築が今も健在です。
美しい瓦屋根や繊細な格子窓、年季の入った手書きの看板が残る商店の姿は、ノスタルジックな昭和の香りを色濃く漂わせながら、今も地域の日常に溶け込んでいます。あえて大通りを避け、車一台がやっと通れるような静かな道を歩けば、100年前と変わらないかもしれない風景に自然と出会えるのが、奥深い本牧の魅力です。地元の人々と挨拶を交わしながら歩けば、横浜の“日常にある歴史”を肌で感じられるはずです。
本牧の旧道(本牧二丁目周辺)
- アクセス:市営バス「本牧二丁目」または「本牧原」バス停下車 徒歩約5分。
- ポイント:「本牧神社」や「八聖殿(はっせいでん)」なども近く、合わせて散策すると本牧の歴史をより深く知ることができます。
横浜観光 100年前と変わらない場所を巡るまとめ
今回の散策で、横浜という都市の多層的な魅力が再確認できました。
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横浜には、未来的な都市景観とは対照的な、“時間が止まったような風景”が、丘の上や路地裏に確かに残っています。
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有名観光地をあえて避け、地元の人々の生活が続く裏道や高台にこそ、明治・大正・昭和の空気が色濃く宿っています。
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壮麗な近代建築、地域の鎮守である神社、生活を支えた坂道や石垣、そして今も続く古い商店。そのすべてが歴史の語り部です。
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ガイドブックに載っている情報だけでは決して得られない、“時間の厚み”を五感で実感する、深く知的な体験ができます。
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次の休日はスマホをしまって、風景と歴史の声に耳を澄ませる、そんな“時間旅行”に出かけてみませんか。
観光とは、単に新しい場所を見て回ることではなく、「その土地が重ねてきた過去と、今ここにある現在が交差する瞬間に出会うこと」なのかもしれません。 100年前と変わらない場所を自分の足で歩くことは、変化の激しい現代に生きる私たちが、少し立ち止まり、失われたものと守られてきたものの価値を感じ直すための、最高に贅沢な旅でもあります。
次の横浜観光では、どうぞ地図アプリをポケットにしまって、時折道に迷いながら、石畳が返す足音や、古い木戸の軋む音とともに、ゆったりと時代を旅してみてください。